一次変換ではない点の移動の話もしておきたいと思います。
そして工夫次第で一次変換として扱えるようになることも。
前回の記事「【数C】一次変換の行列 その2」では
y=mxに関して対称移動する行列を求めましたが、
今回はy=mx+nタイプで。
それではy=2x+1に関して対称移動する行列を求めていきましょう。
まずはy=2x+1に関して点A(x、y)と対称な点P(s、t)を求めます。
直線APとy=2x+1は垂直に交わるので傾きを掛けたら-1になるというところから
t-y
-------・2=-1
s-x
またAPの中点を求めると
x+s y+t
------- -------
2 、 2
であり、この中点はy=2x+1上にあるのでそれぞれxとyに代入して
y+t x+s
------- = 2・------- + 1
2 2
となる。
先ほどの傾きに関する式と連立させてsとtについて解くと
3 4 4
s= − ---x + ---y − ---
5 5 5
4 3 2
t= ---x + ---y + ---
5 5 5
となる。
よって(x、y)をy=2x+1に関して対称移動した後の点は(s、t)なので
これを行列の等式で表すと
┏ a b ┓ ┏ x ┓ ┏ s ┓
=
┗ c d ┛ ┗ y ┛ ┗ t ┛
となりsとtに求めた式を代入すると
┏ a b ┓ ┏ x ┓ ┏ -3x/5+4y/5−4/5 ┓
=
┗ c d ┛ ┗ y ┛ ┗ 4x/5+3y/5+2/5 ┛
となる。左辺を計算すると
┏ ax+by ┓ ┏ -3x/5+4y/5−4/5 ┓
=
┗ cx+dy ┛ ┗ 4x/5+3y/5+2/5 ┛
となりこれがいつでも成り立つように
つまり恒等式となるように係数比較しても
これは恒等式にはならない。
ax+by=-3x/5+4y/5−4/5
この式は右辺の最後に-4/5があるのに対し、
左辺には定数項がないので
左辺のaやbにどんな数を入れても
この等式が恒等式になることはない。
もうひとつの式
cx+dy=4x/5+3y/5+2/5
これについても同様に恒等式になることはない。
しかし一方で
┏ ax+by ┓ ┏ -3x/5+4y/5−4/5 ┓
=
┗ cx+dy ┛ ┗ 4x/5+3y/5+2/5 ┛
この式の右辺は次のように整理できる。
┏ ax+by ┓ ┏ -3/5+4/5 ┓┏ x ┓ ┏ -4/5 ┓
= +
┗ cx+dy ┛ ┗ 4/5+3/5 ┛┗ y ┛ ┗ 2/5 ┛
つまり右辺のような計算をすればy=2x+1に関して
対称移動した点を求めることは可能であるが
やはりこれは一次変換ではない。
この等式中のそれぞれの行列を大文字のアルファベットに置き換えると
Y=AX+B
というように見える。
ここで
このAX+Bという計算が一次変換かどうかを検証しよう。
一次変換とは「【数C】一次変換の行列 その1」
の最初に書いたように次の2つの関係が成り立つ変換である。
f(x1+x2)=f(x1)+f(x2)
f(cx)=cf(x)
f(X)=AX+Bでまず上の式を検証してみる。
左辺=f(X1+X2)
=A(X1+X2)+B
=AX1+AX2+B
右辺=f(X1)+f(X2)
=(AX1+B)+(AX2+B)
=AX1+AX2+2B
よって
f(X1+X2)≠f(X1)+f(X2)
これだけでもAX+Bは一次変換ではないといえる。
念のためにもうひとつのf(cx)=cf(x)も検証。
左辺=f(cX)
=A(cX)+B
=cAX+B
右辺=cf(X)
=c(AX+B)
=cAX+cB
よってf(cx)≠cf(x)となる。
したがってy=2x+1に関して対称移動を表す次の式
┏ -3/5+4/5 ┓┏ x ┓ ┏ -4/5 ┓
+
┗ 4/5+3/5 ┛┗ y ┛ ┗ 2/5 ┛
は一次変換ではない。
だが、この記事の最初に書いたように工夫次第では
これも一次変換になる。
その方法を紹介する。
今回の対称移動が一次変換にならなかったそもそもの原因は
ax+by=-3x/5+4y/5−4/5
cx+dy=4x/5+3y/5+2/5
これらの式で右辺に定数項があるのに対し、
左辺には定数項がなかったからである。
だったら左辺に定数項を追加すれば
これらが恒等式になることができるので
一次変換として扱えるようになる!
それぞれの定数項をp、qとして式を書き直すと
ax+by+p=-3x/5+4y/5−4/5
cx+dy+q=4x/5+3y/5+2/5
となる。
これらが恒等式になるとき
a=-3/5、b=4/5、p=-4/5
c=4/5、d=3/5、q=2/5
である。
また左辺を行列で表すと
┏ x ┓
┏ ax+by+p ┓ ┏ a b p ┓
= y
┗ cx+dy+q ┛ ┗ c d q ┛
┗ 1 ┛
となるので点(x、y)を直線y=2x+1に関して対称移動を表す行列は
┏ -3/5 4/5 -4/5 ┓
┗ 4/5 3/5 2/5 ┛
となる。
ここで先ほどの式の右辺に注目すると
点(x、y)というよりは点(x、y、1)と扱う方が自然である。
xy平面で考えていたが、今回の対称移動を一次変換として扱うには
2次元から3次元に次元を上げないといけないということだ。
そこでz座標が1の平面(つまりz=1)上での
y=2x+1に関する対称移動として考えると
移動後の点もz座標は1のままである。
よって移動後の点を(s、t、1)とおくと
┏ s ┓ ┏ a b p ┓┏ x ┓
t = c d q y
┗ 1 ┛ ┗ 0 0 1 ┛┗ 1 ┛
となる。
右辺1つ目の行列の3行目は
左辺の行列の3行目が1になるようにするための要素である。
この形で今回の話をまとめておこう。
点(x、y、1)をy=2x+1に関して対称移動した点を(s、t、1)とすると
┏ s ┓ ┏ -3/5 4/5 -4/5 ┓┏ x ┓
t = 4/5 3/5 2/5 y
┗ 1 ┛ ┗ 0 0 1 ┛┗ 1 ┛
と書けるので、この対称移動を表す行列は
┏ -3/5 4/5 -4/5 ┓
4/5 3/5 2/5
┗ 0 0 1 ┛
である。
このように平面における移動でも3次元で考えることで
一次変換として扱えるようになる。
今回紹介したのと同じような考えで
2次元では一次変換ではない「平行移動」も
3次元では一次変換として扱える。
詳しくはこの本のP188をご覧下さい。
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【数C】一次変換の行列 その1
【数C】一次変換の行列 その2
【数C】一次変換の行列 その3